指揮者のひとりごと9

指揮者のひとりごと…振りの基本…その9 
(土田和彦さんの文章です)
 先にお知らせしたように、今回は〝タイムラグ〟ということについて、指揮に関していえば〝指揮者は半拍に命を懸ける〟と表現してきた内容に関わって書いてみたいと思います。
皆さんもそうかもしれませんが、私はずっと悩んできたことがあります。
 何を今更と言うことなのかもしれませんが、今まで多くの指揮法に関する教則本を読んできました。その中で指揮の振りに関しての図解がなされているのですが、殆どの教則本に書かれているのは振りの起点は上から一番下の位置に振り下ろすように「1(イチ)」として一番下の点から上に向かって「トオ」と上に持って行き、続いて上から「2(ニイ)」と振り下ろして最下点から振り上げるように「トオ」と・・・いうような図を見て振りの練習をされてきたのではないでしょうか。
 4拍子なら真上から真下に振り下ろし打点で折り返し左上に跳ね上げ、そこから下に振り下ろしながら打点で左横に振り上げる。更に真ん中下に向かって振り下ろしたあと右に跳ね上げ、下に振り下ろして跳ね上げて元の真ん中上の場所に戻る、というように振って行けば4拍子の振りが出来ると。
 3拍子なら中央の上から左下の打点を意識して振り下ろし左上に打ち上げ、そこから中央下の打点で右上に跳ね上げ、中央下の打点に向かって振り下ろし跳ね上げ、元の場所…中央上…に戻る、という風に図示された図を見ながら練習を重ねてこられたのではないでしょうか。
 多くの合唱指揮者が何の疑いもなくこれらの教則本を読んで指揮法を身に着けてこられたのではと思っています。私の若い頃に田中信昭さんの薫陶を得る機会に恵まれ、勇み込んで受講したのですが、そこでこっぴどい…失礼、大変素晴らしい…指摘を受け、私の思い違いに気付かされたことがありました。
 それは先に書いた教則本の図式で指示されている振りの基本をそのまま素直に受け取って、歌い手である合唱団員にも同じ形での拍取りを求めていたことから来る間違い…歌い出しのアインザッツが曖昧になってバラバラに歌い出してしまう…だったのです。
 即ち、指揮者としての拍打ちと合唱団員の拍の受け止め方には半拍のずれが生じていると言うことです。
 指揮者の大切な意思表示である曲の表現を伝えるべき振りの時間は、この指揮者の振りの瞬間と受け取り側である合唱団員の受けとめ側に半拍のズレがあるということだったのです。
 若い頃の私にはそれが理解されておらず、自分…指揮者…の振りと同じ時間帯で拍を感じて貰おうと必死になっていたために団員にとって歌い出しのアインザッツが判りにくくなってしまって…その前の準備として息を吸い込むタイミングが取れない…皆の歌い出しがバラバラになっていたのです。
 即ち指揮者の振りと同時に歌い出して貰おうと必死だった…そのため歌い出しが判りにくくバラバラに感じて歌っていた…のを指摘されたということです。
 指揮者は自分の振りの始まりから…最初の上から下の点までの間、即ち実際の歌い出しの半拍先に…常に半拍先行して表情を着けるべき情感を伝えるようにしなければならない、ということです。
 これが私の言う〝指揮者は半拍に命を懸ける〟と言うことであり、その半拍の時間差を〝タイムラグ〟ということなのです。
 即ち、指揮者はこの半拍のタイムラグを意識して振りをすることが大切だと言うことで、振りの基本として大切にするべきことは、最初上から下までの振り…半拍…は合唱団員への情感の総てを伝達するという重要な時間であり、団員にとっては指揮者の情感を受けとめる大切な時間であり、歌い始めへの短い準備の時間として呼吸を整えしっかり声が出せる体制を作るべき時間なのです。そして指揮者の指が下の点を打ち始めたところから声を出す…歌い始める…と言うことになるのです。このことを指揮者は理解した上で、常に〝半拍先の振り〟を構築していくことが大切です。
 最後に、私はこの半拍前に自分の心に溢れる想い…アガペなる〝愛の音楽〟…を伝えるべく色々な表現を以て団員に伝わるように振りを考え振り分けてきました。時には感情の表現を強く伝えたくて振りの基本から大きくズレて振る…振りが大きくなってしまう…ことも屡々でしたが、崩れた振りを直すのに何より大切にしてきたのは、前に申し上げました通学時の電車のつり革を利用した力を抜く振りの練習でした。これのお陰で常に基本に立ち返って自分の振りを修正することが出来たと、今でも想っています。

user.png C69卒 藤山 time.png 2025/01/19(Sun) 01:54 No.685
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