指揮者のひとりごと10

土田和彦さん(W64年卒)の文章です。
指揮者のひとりごと…振りの基本…その10
 今回もう少しタイムラグについてのお話しを続けておきたいと思います。
 タイムラグについてはオーケストラやブラスバンドを振る場合より顕著に感じることが出来ます。それは音を出すという行為は私たち人間が歌う場合はそれほど準備に要する時間は必要ないので、指揮の振りを見て直ぐに声を出して歌うことが出来るのですが、楽器を用いて音を出すという行為は音を出すための準備から音に繋がるまでの間にそれなりの時間が必要になってきます。
 そのために指揮者は楽器奏者が楽器を持ちそれぞれの楽器を鳴らすために身構え、指揮者の振りを見ながら最初の音を出す行為を始めてから実際に音が出るまでにちょっとした空白の時間が出来るのです。そしてこの時間差…タイムラグ…を考えて音の出る点より前に降り始めるようにしなければなりませんし、指揮者はその時間を考えに入れて振り始めることが大切になります。
 オーケストラやブラスバンドを指揮する場合、特に管楽器奏者をメンバーとして振る場合はこの〝タイムラグ〟を意識して指揮をする必要があります。それは管楽器の性質上それぞれの楽器において音が出るまでにより多くの時間…ラグタイム…を要するからです。 管楽器は歌口から息を吹き入れてから管が振動して音が出るまでの時間が他の楽器より長く掛かるのです。だからこれら管楽器を要するオーケストラやブラスバンドで振る場合、歌い出しの打点…最初の音が出る点…までの時間をしっかり確保するように前振りが必要になります。
 従って指揮をする場合、楽器が音を出すまでの間の空白をしっかり感じその分を前振り…アウフタクト…として確保する必要があるのです。
 この振り下ろしから歌い出しの打点までの時間の空白を〝タイムラグ〟と言い、その時間そのもののことを〝ラグタイム〟と呼んでいます。ジャズではこのラグタイムを楽しみながら演奏するプレイヤーが多く輩出していますし、ジャズのバンドに有名なプレイヤー率いる誰々と彼の(サッチモ&His)〝ラグタイム バンド〟という名のセッションが多いのも頷けますね。
 さて、副題として…振りの基本…などと命名しておきながら振りについて殆ど触れてませんでしたね。大変失礼いたしました。そこで今回は振りについて触れておきたいと思います。
 〝タイムラグ〟の項でも指揮者は半拍前の振りを意識して〝半拍に命を懸ける〟と申し上げました。そして団員の歌い出しの半拍前の振りを情緒豊かに表現するようにということに神経を集中して繊細な情感を伝えるよう振りの工夫をすることが大切です。
 が、指揮法の基本として考えておかねばならないのは、いくら情感たっぷりにと言っても右手と左手を縦横無尽に自由気儘に感情の赴くまま振っても良いのか?と申しますと、それはそれで却って判りにくく情感を伝えられないことにもなってしまいます。
 それではどうすれば良いか?と言いますと、やはり常に〝基本に忠実に振る〟ということを心掛けるのが一番大切だと思います。と言うことで、今回は〝左右対称…シンメトリー…に同じ形…軌跡…で振るように心がける〟ことだと思っています。その振りがしっかり身に付いてから情緒溢れる振りをするための変化を考えることです。ここでもまずは基本を大切に振りの練習を繰り返すことだと思っています。
 そして更に基本と言えば、振るときの掌についても基本の基本としてしっかり頭に入れておくことは、f(フォルテ:強く)を表現するときは団員から見て掌の表…指揮をする側は掌を裏返した形…が見えるように振ること。逆にp(ピアノ:弱く)は掌の裏側を団員に向けて振ること。そして言うまでも無いことですが、fでは比較的大きく、pは小さく振るよう心掛けるのが振りの基本です。
 即ち、fを要求するときは指揮者の掌で〝もっと声を大きくこちらに飛ばして〟と声を引き出す…掌で導き出す…ようにふるということ、pを求めるときは掌を裏返して…掌で…もっと小さく腹筋でしっかり支えて少しの息で遠くまで飛ぶようにコントロールしてと、声を押さえるように振るということです。
 今更そんなことは…知っている…と思いがちですが、案外忘れて大振りをしてしまったり変な癖が付いてしまって団員からは「判りにくい」と言われてどこがどう判りにくいのか、どこをどう直せば良いのか考え倦ねてしまうと言ったことも多いのです。
 そんなことから私は、常に基本に立ち返ってこれらの〝振りの基本〟を毎日のルーチンとして練習を重ねることが大切だと思っています。
 今回は前回の〝タイムラグ〟ということから〝振りの基本〟として毎日のルーチンという形で練習を積み重ね、自分なりの癖を修正することが大切であるというようなお話をいたしました。読んでくださる皆さま…特にアマチュアの合唱団で振ってらっしゃる方々…に納得して、ご自分の日々の振りの練習に取り入れていただけたら大変幸せです。

user.png C69卒 藤山 time.png 2025/02/01(Sat) 10:45 No.686
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