先週に引き続いて忠臣蔵の真相を探求するお話です。今回の話だけでも忠臣蔵脚本家が肝心なところで作り話をしているとご理解いただけます。
4.江戸城内での刃傷事件が起こるまでのストーリー
≪刃傷事件当時の浅野と吉良の役割≫
最初に事件当時の浅野 内匠頭(タクミノカミ)と吉良 上野介(コウズケノスケ)の役割を書いておきます。
#天皇が勅使を、将軍である徳川綱吉に派遣することになっており、その勅使接待の担当者が浅野で、接待総責任者が吉良とされた。
#すなわち吉良は浅野に手落ちがないように指導・監督する役目でした。特に今回は将軍綱吉が母へ朝廷から「従一位」という高位をもらえるように働きかけをしている最中だったので、“勅使の接待には絶対に不備があってはならない” という特別な事情がありました。
≪吉良によるイジメの数々≫
忠臣蔵の脚本では浅野は初めての接待役なので吉良に接待の方法について色々と教えを請います。しかし吉良は刃傷事件の日に至るまでに浅野に散々意地悪をしていた。内容は下記の通り
①勅使接待場の玄関に金屏風を飾るべきところ、吉良は墨絵屏風を飾るべきと教え浅野に恥をかかせた
②接待の料理に地味な精進料理を出すべきと吉良は浅野にウソを教えた。
③勅使が将軍家菩提寺の増上寺に参詣する時に畳替えをすべきなのに必要ないと指示した。
④勅使来訪当日の服装は最高級礼装(大紋)であるべきなのに略礼装(長裃)でいいと指示した。
言っておきますが、これらはみな作り話です。理由は下記の通りです。
≪常識的に考えてあり得ないストーリー≫
# 上記①~④はどれも天皇の使いである勅使に対して非常に失礼なことをすることになります。そのためひょっとして勅使が怒って京へ帰ってしまうことは当然考えられます。
# 勅使が怒って京へ帰ってしまうと、今回は特に大切な接待なので綱吉将軍は激怒するでしょう。そうなれば浅野だけでなく指導・監督役の吉良も「お前がついていながら何だ!」と責任を問われます。このような自分で自分の首を絞めるようなバカなことを吉良がするはずがありません。
≪実は浅野は接待役を以前やっていた≫
忠臣蔵の脚本では浅野は初めて接待役を受け持ったことになっているが、実際は17歳の時に同じ役を経験している。当然、接待の方法は浅野やその家臣が知らないはずがないのです。ですから吉良から聞かなくてもどの様にするかは知っていたはず。そもそも今回の勅使接待は絶対に落ち度があってはいけないので、接待役を初心者に任せるはずがなく、経験ある浅野が選ばれているのです。
それで上記①~④は全て吉良を悪人にして浅野を善良な被害者にするための作り話です。また浅野が殿中刃傷事件を起こしたもっともらしい理由としたいからです。
≪すべては浅野の刃傷事件を起こした理由付けのため≫
何故このような話をでっちあげるかと言えば、次回以降で述べますが現実には刃傷事件の原因となるような具体的な出来事を誰も知らなかったからです。殿中で刀を少し抜くだけで “お家断絶・切腹” になるのです。そんなムチャクチャ異常な行動を起こした原因の説明のために忠臣蔵芝居の脚本家は苦心して色んな作り話をしました。
そもそも普通に考えて、浅野が自分と藩が破滅するような行いをするなんて一時的に精神異常を起こさない限りあり得ないわけです。しかしそれでは 「悪人は滅び、正義が勝つ」 という芝居のストーリーにならない。何としても浅野は正常であったが極悪人の吉良にいじめられてカッとなり刃傷に及んだことにしないと観客に喜んでもらえるストーリーにならないのです。
下図は雪の夜の吉良邸討入りを描いた浮世絵 『夜討之図』 歌川国芳