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なおゆき元指揮者の定演評 投稿者:石田事務局長 投稿日:2019/12/12(Thu) 07:25 No.1858

今年卒団の元指揮者、史67“なおゆき”こと伊藤さんに夏のジョイコンに続いて今回の定演も評価をしていただきました。

内容が詳細ですので4回くらいに分けて連載いたします。

写真は第3ステージで真利枝先生の後ろに控えておられる なおゆきさん。

Re: なおゆき元指揮者の定演評 - 石田事務局長   2019/12/12(Thu) 08:02 No.1860
合一会のみなさま、こんにちは。史67の伊藤直之と申します。私は2年前の学生正指揮者であり、今年は譜めくりとして合唱団の演奏会に参加させていただきました。
前期Jointコンサートに引き続いて、今回も私が演奏会のレポートをいたします。

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【学歌 あけぼの】

定演開演におこなう直前の発声練習は毎年伊東先生にやっていただいているのですが、今年はとくに「力みすぎず、自然な発声を」とおっしゃっていました。それほどまでに団員たちにはエネルギーがみなぎっていました。舞台袖に控える前、楽屋の時点ですでに気合十分です。

まずは恒例の学歌「あけぼの」から開演です。私が2回生のころから、前期Jointは下手からSATB順で、定演はパートごちゃ混ぜのシャッフルオーダーで歌っています。シャッフルオーダーは当然、隣で違うパートが歌っているわけですから、つられないように、回生関わりなく自分の声に責任をもたないといけません。そういう難しいオーダーでしたが、前期に引き続いて素晴らしいハーモニーでした。表情もきりりと引き締まって、これからの演奏の盛り上がりを暗示するようでした。

指揮はきゃしー正指揮者。舞台袖から見ていましたが、さすが4回生、落ち着いて振っていました。

Re: なおゆき元指揮者の定演評 - 石田事務局長   2019/12/12(Thu) 08:08 No.1861
【1st 通年曲『今日もひとつ』】

1stは前期にも披露した、混声合唱組曲『今日もひとつ』(作詩:星野富弘、作曲:なかにしあかね)。もとは女声合唱曲であったものを、混声合唱曲に仕立ててあります。簡単に書きましたが、この作業だけで12年もの歳月が費やされています。この曲集がいかに長い歴史をたどってきたか、一度書いたことがありますのでいかに再録いたします。

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…出版譜のまえがきによれば、この曲集の原型は 1992 年初演の、独唱版『二番目に言いたいこと』に収録されています。それから 14 年後の 2006 年に女声合唱組曲『今日もひとつ』が完成し、それが混声になったのは 2018 年 11 月のことでした。初演は、去年の府大定演が行われた 12/2(日)に伊豆で行われています。こんなに新しい曲集を後輩たちはどこから見つけてきたのか、私自身は驚きましたが、それ以上に驚きなのは曲集の原型ができてから混声版として演奏されるまで実に約 29 年もの歳月を経ていることです。
まえがきで作曲者のなかにしあかねさんは「大切な富弘さんのことばを、ひとつひとつ納得できる形を模索しながら、」と書いてらっしゃいます。他の合唱作品にも言えることでしょうが、この曲集はとりわけ丁寧細やかな詩の読み込みの上に成り立っていると推察されます。

…(中略)1946 年、群馬県に生まれた星野さん(作詩者)は大学卒業後、中学の体育の先生に就かれます。ところが、赴任して 2 か月後、授業中に頸椎を損傷する大けがを負ってしまいます。首から下の自由が利かなくなった星野さんはいつまでとも知れぬ長い入院生活の中で、字を書きたいと願うようになり、唯一動かすことのできる首を使って手紙を書かれるようになります。
そうしてそこに絵がつくようになり、星野さん独自のスタイルが生まれました。すなわち、詩と絵が一枚の色紙に収められているあのスタイルです。
ここでは簡単に書きましたが、私などにはとても想像できぬほどの悲しみと苦しみとから生み出された詩を反芻していると、何とも言えない気持ちになります。そしてこのような詩が 5 篇集まって、混声合唱組曲になるまで実に 29 年もかかった。この組曲はそれほどに膨大なエネルギーが費やされて成ったものなのです。

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Re: なおゆき元指揮者の定演評 - 石田事務局長   2019/12/12(Thu) 08:15 No.1862
指揮はきゃしーさん。Jointでは1曲目と5曲目のみでしたが、定演では全曲披露です。


1曲目は「いつだったか」、ピアノ演奏のみの部分が全74小節中39小節を占める、という特異な曲です。前期から向き合っている曲であり、やわらかい曲調に合うようにやさしく歌えていました。
男声、とりわけテナーは跳躍が頻出するうえ、高い音も続いていましたが、そういったところもファルセット(裏声)で上手に処理できていました。強弱も全パート意識していましたし、言葉の歌い方も語尾で開きすぎることなく、全体として丁寧に仕上げられたと思います。
ピアノソロの部分では、何人か穏やかな微笑みを浮かべたり、すこし目を閉じてみたり、歌う以外の演出が見られたのは嬉しいことでした。これからも「舞台芸術であること」を大事にして、聴覚だけでなく視覚でも楽しめればいいな、と思いました。


2曲目は「秋のあじさい」。歌詞集を開かれた方は「この詩がどうして、秋のあじさいなのか?そもそもあじさいとは夏の花ではないのか?」と思われたかもしれません。
これについてきゃしーさんは一つの解釈をパンフの紹介文に寄せています。詩を載せておきますので、みなさんも少し考えてみてください。

「一日は 白い紙/消えないインクで/文字を書く/あせない絵の具で/色をぬる/太く、細く/
時にはふるえながら/一日に一枚/神さまがめくる/白い紙に今日という日を綴る」

実はこの曲はとても難しい曲だと思います。語頭のほとんどは弱拍の裏拍にあり、語尾を伸ばす。主旋律を歌うソプラノには跳躍が多く、ベースを中心に全声とも半音の移動が多い。
強弱はピアノ系が多く、全体としてしっとりさを意識しながらも、弱くなりすぎて聴こえないようでは困るのでppでもしっかり響かせないといけない。
1分30秒ほどの曲でサラリと流してしまいそうですが、多方面に注意を配っていないとどこかに綻びが生じる難曲だと言えます。
もちろん演奏会ですべてクリアできたわけではありませんし、もう1回演奏会ができるならば最も改善する余地がある曲でしょう。
この曲を後輩たちがどう反省するか、に今後の成長のヒントがあるのではないかと思います。
演奏会本番では、入りをためたところにきゃしーならではの技巧が光っており、全体として強弱に丁寧な印象を持ちました。
ラストのリタルダントは直前までなかなか揃わず、悪戦苦闘していましたが、最後にはきれいに合わせることができ、私自身安堵しました。
現時点でのベストを尽くしたと言って良い出来だったと思います。

Re: なおゆき元指揮者の定演評 - 石田事務局長   2019/12/12(Thu) 08:24 No.1864
3曲目は「よろこびが集ったよりも」。この曲は詩のスタンザ(連)に忠実に作られており、強弱は2曲目よりもつけやすかったはずです。一方で、12/8拍子という見慣れないリズムと、変イ長調(♭4つ)→ホ長調(♯4つ)→変イ長調(♭4つ)という見慣れない調で要するに、府大合唱団にとっては分かりやすい形で難しい曲だったといえるでしょう。半音移動や跳躍もふんだんに織り込まれています。実際、後期の初めにおいて最も課題だったのはこの曲でした。
曲はピアノなしのソプラノパートソロから始まります。これはしっかり決まりました。そのままテナーパートソロへ。これは下降音形ですこし崩れましたが、すぐに立て直しました。まずはクリアです。音とリズムはきゃしーが絶えずアドバイスしていたことが実を結び、ほとんど完璧に歌えていたと思います。加えて、テクストの処理も1つ2つを除いて概ねよくできていたでしょう。
この曲に関しては本当に快挙だと思います。ひとつ欲を言うならば、休符がないところで切る場面があり、12/8拍子で流れるような曲調がぶつ切りになってしまうような印象をもちました。来年以降の課題にしてもらえたら、と思います。


4曲目は「いちじくの木の下で」、作詩の星野さんはクリスチャンであり、この詩のモティーフは聖書から取られています。
この曲はきゃしー正指揮者お気に入りの1曲で、皆もテンション高く歌っていました。表情は先ほどの曲と打って変わって明るくなっており、歌声からも大きく口を開けて歌っているな、と分かりました。いかにも楽しそうに歌っていたのは、客席にも伝わったでしょう。
細かい音や強弱の話よりも、こういった場面が多かったのはとても嬉しかったです。また後半でも、項を設けて講評したいと思います。


5曲目は、Jointでも披露した「今日もひとつ」。音や強弱の崩れたところがありましたが、みんな必死に歌っており、悔いなく演奏している姿をみて私も大いに感動しました。
譜めくりという特等席で聴きながら、皆の表情もきゃしーの振っている姿も見ながら、まりえ先生のピアノも浴びながら、私は何だか大きなエネルギーに気圧されるような感じがしました。
4回生の中には泣きかけの人もいましたね。よく堪えたと思います。
それにこの曲は、直前にあからさまに長い曲間がとられていたことに気づかれたでしょうか。こうした演出一つをとっても、これから何かが起こりそうな期待感を増幅させ、観客を無意識のうちに曲集の世界へと没入させる役割をもちます。4曲目が終わってからの約20秒間の沈黙は、それまで散らばっていた空間のあらゆる感覚を呑み込み、5曲目最初のセブンスは極大に達した緊張感を一気にあの夕暮れのような曲の世界へ、従容としてすべてを引き受ける詩人の世界へといざないます。このような世界観は定演のステージでもしっかりと反映されており、全体として非常に聴きごたえのある印象を与えることに成功したと思います。
1年間、がんばって練習してきた甲斐がある内容になったといえるでしょう。

Re: なおゆき元指揮者の定演評 - 石田事務局長   2019/12/12(Thu) 08:34 No.1865
〈きゃしー正指揮者について〉

写真報告で石田さんが紹介されました通り、4回生であり、指揮者としては3年目です。
彼女の指揮は、基本の図形に忠実であり、入りや切りが揃わないということはほとんどありません。歌い手にとって非常にみやすい指揮であり、今回の通年が一体感のあるステージになったのも彼女の指揮によるところが大きいと思います。
また、しばしば左手だけが独立した動きをすることで曲の表情を示し、感情を乗せやすくなっています。

さらに今回の定演では、フォルテ系の力強い指揮が印象的でした。とくに学指揮アンコール「くちびるに歌を」での、空間目いっぱいを使った両手での叩きは、音楽のダイナミクスに対する強い意思を感じることができ、見ごたえ十分でした。
4回生でありながら、毎回の練習に参加して指導し、委員会にも顔を出して団の運営に携わることは、信じられないくらい大変だっただろうなと思います。
本当にお疲れさま!府大合唱団を支えてくれて、どうもありがとう。

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明日に続きます、お楽しみにお待ちください。

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